Client/Project山村屋 様Year2026ToolFigma(デザイン)/ STUDIO(ノーコード実装)Background of the request(制作背景)山口県・長門湯本温泉で創業100年を迎える老舗旅館「山村屋」様より、Webサイトのリニューアルをご相談いただきました。山村屋様は、大浴場と会席料理を擁する旅館「山村別館」、全室源泉かけ流しの離れ「せせらぎ亭しぇふず」。一つひとつに確かな魅力があり、長く地元に愛されてきた一方で、Web上ではその魅力が十分に伝わりきっていない。それが最初に感じた課題でした。既存のWebサイトは、施設ごとに別々のタイミング・別々のデザインで作られ、URLもデザインのトーンもバラバラ。情報が古いまま更新が止まっているページや、リンク切れを起こしているページも複数あり、検索やSNS、旅館組合の紹介ページから訪れたお客様が「このサイトにアクセスできません」という画面に行き着いてしまう状態も発生していました。100年の歴史を持つ宿でありながら、その歴史も、源泉かけ流しの湯も、料理長が手がける会席料理も、Webの第一印象だけでは伝わらない。「価値はあるのに、伝わっていない」 という、もったいない状況をどう解きほぐすか。そこからこのプロジェクトは始まりました。リニューアルの目的このリニューアルで私が最初に定めたゴールは、サイトを「新しく・きれいに」することではありませんでした。本当に必要だったのは、バラバラに存在していた複数施設を、「山村屋」という一つのブランドとして束ね直し、その価値が初見のお客様にも伝わる状態をつくること でした。具体的には、次の3つを実現することを目的として設定しました。① 分散したブランドを、一つの世界観に統合するそれぞれ独立して見えていた山村別館・しぇふず・たかせを、「山村屋」という親ブランドのもとに整理し、どのページを訪れても同じ宿の世界に居るように感じられる一貫性を持たせること。② 歴史の風格と、これからの宿としての魅力を両立させる創業100年という重みを大切にしながらも、古さや停滞を感じさせない。「老舗だから安心」と「今、行ってみたい」を同時に成立させること。③ 検討から予約までの導線を、迷わせない施設の違いを理解したうえで、自分に合った宿・部屋を選び、予約まで一直線でたどり着ける。選択の途中で離脱させない構造をつくること。これらを、デザイン・情報設計・ライティング・運用設計のすべての面から実現することを、このプロジェクトの目的に据えました。どう整理したか(情報設計とライティング)まず取り組んだのは、見た目を整えることではなく、情報の構造そのものを組み直すこと でした。階層構造の再設計既存サイトは「施設ごとに独立したサイトが横並びに存在する」構造でしたが、これを 「山村屋」という親ブランドの下に、各施設がぶら下がる親子構造 へと再設計しました。トップページではまず山村屋というブランド全体の世界観と全体像を伝え、そこから「山村別館」「しぇふず」「周辺観光」「最新情報」へと自然に導線が枝分かれしていく。お客様が今どこを見ていて、次にどこへ行けるのかが直感的にわかる地図のような構造を目指しました。情報の優先順位を引き直す旧サイトでは、お客様が本当に知りたい情報(温泉・料理・客室・料金・アクセス)が長文の中に埋もれてしまっていました。そこで、一度すべての情報を洗い出して優先順位を引き直し、「最初の数秒で何を伝えるか」「スクロールするごとに何を理解してもらうか」を一つひとつ設計し直しました。長い説明文は、読み手がスキャンしながら理解できる単位に分解し、削るべき情報は思い切って削ぎ落としています。言葉の設計(コピーライティング)このプロジェクトでは、デザインと並行してサイト全体のコピーライティングも担当しました。「賑わいと静けさを、大切な人とゆっくりめぐる。」「自分だけの湯が、部屋にいつでも満ちている。」こうしたキャッチコピーや各セクションの文章は、ただ情報を説明するのではなく、その宿で過ごす時間そのものを想像してもらえるように、一語一語を選んでいます。温泉宿が売っているのは部屋でも料理でもなく「過ごす時間の質」だと考え、その体験が読んだ瞬間に立ち上がるような言葉を目指しました。デザインと言葉を同じ人間が一貫して設計することで、ビジュアルとトーンに一切のズレがない世界観をつくれたと考えています。なぜそうしたのか(デザインの判断理由)① ブランドを束ねるための「共通言語」=デザインシステム複数の施設を一つのブランドとして見せるには、全ページを貫く視覚的な共通言語が不可欠だと考えました。そこで、墨色・生成りのクリーム・差し色の赤を基調としたカラーパレットと、明朝体を主役にした書体設計でデザインシステムを構築。色・余白・文字組みのルールを統一することで、どの施設のページを訪れても「同じ山村屋だ」と無意識に感じられる一貫性を持たせました。差し色の赤は、和の世界観の中で視線を導く役割を担わせ、予約ボタンなど「動いてほしい場所」にだけ意図的に配置しています。② 施設の個性は、色ではなく「レイアウトの構造」で描き分けるここがこのプロジェクトで最も悩み、最も工夫した部分です。全施設を同じ見せ方に統一すると、今度はそれぞれの個性が埋もれてしまう。かといって色やフォントを変えると、ブランドの一体感が崩れてしまう。このジレンマに対して私が出した答えは、色やフォントはほぼ共通のまま、レイアウトの構造そのものを変えて個性を描き分ける というアプローチでした。 多彩な体験を持つ「山村別館」は、複数の写真をグリッドで見せ、大浴場・客室・料理といった要素の豊かさ=賑わいを表現。一方、静寂が魅力の離れ「しぇふず」は、一枚の写真に大きく没入させ、余白を贅沢に使うことで、静けさとプライベート感を表現しました。同じブランドの中に、はっきりと異なる二つの人格を共存させる設計です。③ 100年の歴史を「古さ」ではなく「風格」として翻訳する老舗旅館のリニューアルで最も避けたかったのは、歴史が「古さ・古臭さ」として伝わってしまうことでした。そこで、装飾を足すのではなく削ぎ落とす方向で世界観を設計。余白を大きくとり、明朝体の繊細な線と、写真そのものの力に語らせることで、100年という時間を「落ち着き」と「品格」へと翻訳しました。引き算のデザインこそが、この宿の格を最も雄弁に伝えると考えたためです。④ 「作って終わり」にしない、運用まで含めた設計旅館は、季節ごとにプランも料理も移ろい続ける業態です。どれだけ美しいサイトを作っても、更新が止まればまた数年後に同じ問題が起きてしまう。だからこそ、デザインの納品で終わらせず、運用し続けられる状態までを設計すること を仕事の範囲だと考えました。 最新情報やお品書きをご担当者様自身で更新できるCMSを設計し、入力するだけで体裁が崩れない仕組みを用意。あわせて予約システムとの連携、検索エンジン対策(SEO)として全ページのタイトル・ディスクリプションを設計し、公開後に誰でも迷わず運用できるよう、操作マニュアルも作成してお渡ししました。美しさを、運用の中でも保ち続けられること。そこまでを含めて、このプロジェクトの完成形と捉えています。宿を「泊まる場所」ではなく「山口への入り口」にするこのリニューアルで、私がもう一つ強くこだわったのが周辺観光ページ です。旅館のWebサイトは、ともすれば「部屋を見せて、料金を見せて、予約してもらう」ための場所になりがちです。けれど私は、宿が本当に売っているのは一泊の体験ではなく、「この土地にまた来たい」と思ってもらう記憶そのもの だと考えました。一度きりのお客様で終わるのではなく、山口を好きになって、何度も帰ってきてもらう。そのためには、宿の魅力だけでなく「山口という土地そのものの魅力」を伝えきる必要がありました。そこで周辺観光ページは、単なるスポットのリンク集にはせず、山口の知られざる絶景と歴史を一つひとつ物語る読み物 として設計しました。断崖に連なる123基の朱い鳥居(元乃隅神社)、コバルトブルーの海を1,780m走り抜ける角島大橋、宿から歩いて15分の600年の古刹(大寧寺)、3億年前の海底が隆起した秋吉台。それぞれのスポットに、歴史・見どころ・アクセス・地元ならではの立ち寄り情報まで添え、写真とコピーで「行ってみたい」という気持ちが自然に立ち上がるように構成しています。コピーも、観光ガイドの説明文ではなく、その場所に立ったときの感動が先に伝わる言葉を選びました。「誰も教えてくれなかった場所が、ここにあった。」というリード文は、山口県がまだ広くは知られていないからこそ持つ「発見の喜び」を、そのまま宿の価値に変えたいという想いから生まれたものです。さらに、長門湯本温泉を 「山口観光の拠点」 として明確に位置づけ、1泊2日のモデルコースやレンタカー利用のアドバイス、フロントへの相談導線まで用意しました。「この宿に泊まれば、山口を効率よく、深く楽しめる」そう感じてもらうことで、宿泊の動機そのものを強くする狙いです。宿の魅力と、土地の魅力。その両方が結びついたとき、お客様の中に「また山口に来よう。そのときはまたこの宿に泊まろう」という気持ちが生まれる。この周辺観光ページは、そんなリピートの種をまくためのページとして、特に力を入れて作り込みました。おわりに山村屋様のリニューアルは、デザイン・情報設計・コピーライティング・実装・運用設計までを一貫して担当した、私にとっても規模の大きなプロジェクトでした。価値あるものが、正しく伝わる。そのために必要なのは華やかな演出ではなく、「何を伝え、何を削り、どう束ねるか」という設計の精度だと、改めて感じた仕事です。100年続いてきた宿が、これからの100年も選ばれ続けるために。その入り口となるWebサイトをつくるお手伝いができたことを、とても嬉しく思っています。https://y-bekkan.jp/