yohaku.余白に、整う。新潟・長岡のカフェ「yohaku.」のロゴ・ブランド設計Clientyohaku. / 夢乃さんTypeカフェのロゴ・ブランド設計Roleコンセプト設計・ロゴデザイン・提案資料制作Year2026ToolsFigma, Illustratorはじまりのことある日、夢乃から「カフェをやりたい」という話を聞いた。新潟県長岡市。決して大きな街ではない場所で、ひとつのカフェを始める。 ヒアリングシートに書かれていた言葉は、流行りの言葉でも、SNS映えする言葉でもなくて、もっと静かで、もっと深いものだった。「日常の中に、余白を。」「疲れていても、迷っていても、そのままの自分で居られる場所がほしい。」これを読んだとき、私は「これはロゴをつくる仕事じゃない。居場所をつくる仕事だ」と思った。ヒアリングから受け取ったもの何度かの対話を重ねて、夢乃の中にあるイメージを少しずつ言葉にしていった。世界観のキーワード 親しみやすさ / 静的 / 柔らかい / 落ち着きひとことで言うと=落ち着き 隠れキーワード=おひさまターゲット 20代女性が中心、10〜20代男女 疲れていて癒されたい人 心を整えたいと感じている人色の指定 背景:白/メイン:黒(墨色)/サブ:黄色(おひさま)/NG:赤避けたい印象 ポップすぎる雰囲気/洗練された都会的な感じ「静けさのなかに、温度を持たせる」これがこの仕事の難しさだった。 ミニマルにすると冷たくなる。あたたかみを足すとポップになる。 そのちょうど中間の温度を、形にしないといけない。コンセプト「余白に、整う。」何度も書き直して、最後に残った言葉。「日常の中に、余白を。」を初期の言葉として持ちながら、もう一歩深いところに降りたかった。「余白がある場所」だけではなく、「余白で、何が起こるのか」。 そこに居ることで、心が整っていく。バラついていた感情が、ゆるくまとまっていく。 ぐるぐるしていた頭の中が、ストンと落ちて静かになる。帰り道、肩の力が抜けて、「明日からも、前を向いて生きていこう」と思える。そんなプロセスそのものを、コンセプトに置いた。余白に、整う。設計思想 。不揃いな5つのかたちこのコンセプトを、どう形にするか。ロゴを作るとき、いつもなら円や四角の幾何学から考える。でも今回は違った。 夢乃さんが受け入れたい人は、そろっていない人たちだ。 疲れている人。喜んでいる人。孤独な人。余裕がある人。迷っている人。だったら、ロゴもそろっていなくていい。5つの不揃いなかたちを、ぽつんぽつんと配置した。 それは、5人の他人。同じテーブルではない、別々のソファ、別々の窓辺、別々のページの本。それでもひとつの空間を共有している。そして、あえて円に閉じない。 「整っていく途中」「これから誰かが入ってくる場所」を、形そのものに残した。 完成しきっていないことが、このロゴの完成形。ピリオド「.」に込めたもの「yohaku.」の最後の点。これに、二つの意味を込めた。ひとつめ ── 整ったあとの、静けさ 言葉の終わりではなく、感情が落ち着いた余韻の点。 そのカフェでの時間が、心に静かに残る印。ふたつめ ── 明日への、小さな光 肩の力を抜いて、大変なこともあるけれど、それでも前を向いて生きていく。 その出発点となる、ささやかな光。ピリオドだけを、おひさまの黄色にした。 そこにだけ、温度があるように。6案を出した理由ロゴが「ひとつ」に決まる前の、揺れていた時間のことも、書き残しておきたい。最初のスケッチでは、もっとシンボリックな形を試していた。輪っか、葉っぱ、コーヒーカップを抽象化したマーク。どれも「カフェ」としては成立するけれど、夢乃の言葉に対する答えになっていなかった。そこで一度、シンボルを諦めた。 「形」ではなく「配置」で世界観を作る方向に切り替えた。そこから生まれたのが、3つの構成案。案A:散らし ── それぞれの距離で、そこに在る案B:縦の呼吸 ── 上から下へ、ひと息で整える案C:流れ ── ゆるやかに、ほどけていくロゴが、彼女の道になった日提案書を渡したあと、夢乃が案Bの「縦の呼吸」を見つめながら、ぽつりとこう言った。「これ、自分の辿ってきた道みたい。」その言葉を聞いたとき、私は鳥肌が立った。「縦の呼吸」は、もともと「朝のざわつき → 昼の整い → 夕方の余韻」という時間の流れを意図していた。 ぐるぐるしていた気持ちが、ストンと落ちて静かになる、その心の動きを縦のリズムに重ねた。でも夢乃さんが見ていたのは、もっと長い時間だった。 彼女自身が、これまで歩いてきた道。 迷ったこと、立ち止まったこと、それでも前に進んできた、その軌跡そのもの。ロゴというのは、本来、作る人だけのものじゃない。 受け取った人が、自分の物語を重ねて、はじめて完成する。 未完成だから、何度でも意味が更新される。設計思想に書いたその言葉が、目の前で起きた瞬間だった。私が引き出したのではなくて、ロゴが彼女の中の何かを引き出した。 それを目の前で見ることができたのが、このプロジェクトでいちばん幸せな時間だった。ロゴが描いた、未来の景色ロゴが決まったあと、私たちは少しだけ雑談をした。 そこから、思いもよらない未来の話が広がった。「カフェが大きくなったら、オリジナルコーヒー出してもいいじゃん。」「他店のカフェのブランディングとかも、してみたいよね。」ロゴをつくる前の夢乃は、「カフェを始める」ことしか口にしなかった。 それで精一杯だった。でも、ロゴができてブランドの輪郭が見えた瞬間、その先の景色が急に見えるようになった。 お店が育って、商品が育って、その経験で他の誰かの店を支えていく。 yohaku. が、ひとつの場所だけに留まらない可能性として動き出した。ロゴは、ゴールじゃない。 スタート地点だ。形が決まると、人は次の景色が見えるようになる。 このとき初めて、私が作ったのが「ロゴ」じゃなくて「未来を見せる装置」だったんだと気づいた。ワクワクしながら未来の話ができた、あの時間。 あれが、このプロジェクトの本当のゴールだったと思う。文字のはなし 。 二つの書体、ひとつの空気ロゴ周りの文字には、2つの書体を使い分けている。ロゴ・見出し ── 手書き調の文字 完璧で均一な文字は、誰が書いたか分からない。「会社が機械で作った字」になる。 yohaku. はチェーンではなく、夢乃という一人の人がやるカフェ。だから、文字にも「彼女の手で書かれた」温度が必要。一画ずつ、わずかに違う角度。そのゆらぎが温度を生む。本文・説明 ── 筑紫オールドゴシック 藤田重信さんがデザインした、フォントワークスを代表する書体のひとつ。「オールド」の名のとおり、昔の活版印刷時代の文字の骨格を現代に蘇らせた書体。普通のゴシック体は、文字の内側の空間(ふところ)を広く取って、機能的な読みやすさを優先する。駅の案内板や役所の書類のような、整いすぎた表情。筑紫オールドゴシックは違う。ふところをあえて狭く設計し、毛筆で書いた漢字のような骨格を残している。エレメントの先端にも、わずかな抑揚や呼吸がある。書籍・文芸誌・思索的な雑誌で長く愛用されてきた、「読ませる」ための文学的なゴシック。整っているのに、人の気配がある。 小さく組まれても、書いた人の呼吸が消えない。yohaku. の本文に、これ以外の選択肢はなかった。二つは、同じ温度の手仕事。役目だけが違う。ブランドのMVVと、ロゴの関係ロゴが、ブランドの全部を背負えるように設計した。yohaku.ロゴで体現したことMISSION居場所をつくる形を固定しない、誰も拒まない不揃いなかたちVISION心が整うバラバラだったものが、ゆるくまとまっていく構造VALUEまた来たくなる未完成だから、何度でも意味が更新されるロゴは、ただの記号じゃない。 ブランドの哲学を、形と空間で表現する道具だと思っている。完成 。そして、これから提案書を渡した日、夢乃は静かに頷いた。 「これでいい、というより、これがいい」と言ってくれた。これから、看板になる。ショップカードになる。コーヒーカップに刷られる。 SNSのアイコンになる。誰かのスマホの中で、小さく現れる。そのたびに、このロゴが伝えるのは、たったひとつのメッセージ。余白は、何もない場所ではない。 これから、すべてが入っていく場所です。「余白」を、このロゴに、そっと預けます。 ここから、yohaku. のすべてがはじまります。